Manic Eden - Manic Eden

Manic Eden - Manic Eden - 1994
1. can you feel it 2. when the hammer comes down 3. ride the storm 4. cant hold it 5. fire in my soul 6. do angels die 7. crossing the line 8. dark shade of grey 9. pushing me 10. gimme a shot 11. keep it coming



時々、胸がキュッとなる時がある。別に心臓が悪いわけでもなければハートブレイクしたワケでもないのに、キュッとなる。どういう時になるのか・・・中古CDのワゴンセールで好きなアルバムを見つけた時だ。マニック・エデン、このバンドのCDはまず間違いなくそこで見つかる。それくらい人気がない。おまけに200円前で売られているから、とても悲しい。

エイドリアン・ヴァンデンバーグが結成したバンド「マニック・エデン」のメンバーはエイドリアン・ヴァンデンバーグ、トミー・アルドリッジ、ルディ・サーゾ、ロン・ヤングの四人。結成の経緯は93年1月に彼がエンドースを結んでいた楽器メーカーの peavey から「LAのショーで何か演ってくれ」という話があった時に、エイドリアンと同じように peavey に関わっていたルディ・サーゾとトミー・アルドリッジと一緒に演ったのが発端となった。

94年。エイドリアン・ヴァンデンバーグ主導のアルバムが久しぶりに出るというから手に取ってみた。彼の音を聴くのは実に久しい。まずパッケージ。元々彼はアルバムのジャケットを自身で手掛けていたけど、この絵の変わりようはなんだ?なんとも言い難い絵柄だけど・・・おもしろいじゃないかっ!

青いディスクに赤文字でバンド名が書かれたCDをセットして再生すると、エイドリアンのギターの音の変化に少し戸惑った。一曲目からジミ・ヘンドリックスの " you got me floatin' " を彷彿させるギターとボーカルが一緒に歌っているかのような " can you feel it " を持ってきていて、なんともグルーヴ感のある粒の大きい音を出してくるからだ。そしてそこにソウルフルなロン・ヤングの声である。ちょっと意外な路線の音で来たなと思ったけど、これが意外に合う。このアルバムまでの彼のギターの音は澄んでいて硬質な響きと真面目さがあったけど、今回の彼のギターはとてもオーガニックで温かい音だ。

セルフタイトルのこのアルバムには11曲が収録されていて、ハード、メロウな曲共に良質のギター・サウンドがある。そしてこの中の多くの歌詞に共通するのが、人生の途中で立ち止まってしまった人達の物語というのも彼らしい。
 
このアルバムまでの彼の活動はファンから見ても少し俯いてしまうようなものだった。エイドリアン・ヴァンデンバーグ、彼は自身でバンド「 vandenberg 」を81年に結成し、ギタリストとして活動していた。バンドは82年に「 vandenberg 」を発表。アルバムからはそこそこのヒット曲は出るがセールスには結びつかず、バンドは続けて「 heading for storm 」(83)、「 alibi 」(84)とアルバムを発表する。しかし話題にはなってもそれがなかなかセールスとして延びず、レーベルとの契約更新は叶わなかった。結果「 vandenberg 」というバンドは「知る人ぞ知る」という存在で終わってしまい、87年に解散。

だけど人間、いい仕事を心がけていればどこかで見てくれている人がいるのも確かで、そんな彼に声を掛けたのが、幸か不幸か、ホワイトスネイクのデイヴィッ ド・カヴァデールだった。先に「幸か不幸か」と書いたのは、このデイヴィッド・カヴァデールという人はなんでも自分のカラーに染めるところがあるからだ。 ましてエイドリアンは自分のギターに独自のトーンを籠めることが出来る人なのだから、ファンからしたらそのトーンの行方が心配というもの。しかし、ファンが心配していた部分とは別のところで問題が持ち上がった。ホワイトスネイクのアルバム「 slip of the tongue 」(89)製作時にエイドリアンは腕を痛めてしまい、録音には参加出来なくなってしまったのだ。

暫くして腕が回復し、再びギターを弾けるようになったエイドリアンはバンドのワールド・ツアーに同行する。しかしそこには彼の代わりにバンドに加入してアルバムの録音にも参加していたスティーヴ・ヴァイがいた。 スティーヴ・ヴァイ、彼は彼でとてもうまいギタリストではあったけど、エイドリアンとは音が違いすぎた。例えるなら「エイドリアンがリキッド」なら「ヴァイはソリッド」で、ギタリストという括りでは語れても、その音は相反するものだ。

アルバムのツアーの後、ホワイトスネイクは活動を休止。次第にエイドリアンの噂も聞かれなくなっていった。それから5年が過ぎ、何の前触れも無く発売されたのがこのアルバム。

インタビュー記事を読むと「自分が子供の頃に聴いてた曲みたいにシンプルにしたかった」とエイドリアンは言っていた。その為、このアルバムでは自分が今まで使っていたクラッシックから影響を受けたフレーズを封印し、使うコードまで限定して自分に制約を設けたという。それを聞いたインタビュアーが「シンプルにするのは何をしたいが為に?」と問うと、彼は「素朴な音になる程、感情が表に出る」と答えていた。結果、その彼の考えと試みはこのアルバムの中で高レベルで達成されているように個人的には思えた。

ただ残念なのがこのアルバムの後、エイドリアンはマニック・エデンとして新しいアルバムを発表してくれていないことだ。彼のHPを見ると今は絵を描いて生活しているらしいけど、たまにはアルバム作ってよ・・・。

余談 + エイドリアンのギターはホワイトスネイクが再始動したアルバム「 restless heart 」(1997)と「 starkers in tokyo 」(1998)でも聴けますよ。前者ではメロウなギターが、後者ではアコースティックなギターが聴けます。

2011/03/05      1990 M Manic Eden