Tom Waits - Downtown Train

「Rain Dogs」(85) から " Downtown Train " を私訳

「Rain Dogs」(85) から " Downtown Train " を私訳。この曲は89年にロッド・スチュワートがカバーしたのがヒットして、以降オリジナルも注目されるようになります。

元々はボブ・シーガーが最初にカバーに興味を示してそれをロッド・スチュワートに話したところ、自分がレコーディングするよりも先にカバーされてしまったとか、トレヴァー・ホーンがロッド・スチュワートにカバーすることを薦めたとか逸話がありますが、やはり渋いのはトム・ウェイツのバージョン。歌詞の訳はトム・ウェイツのイメージに合わせてみました。

" Downtown Train "

Outside another yellow moon
窓の外にはもうひとつの黄色い月が
Punched a hole in the nighttime, yes
パンチで抜いたように夜空に穴を開けちまってる
I climb through the window and down the street
俺が窓枠を乗り越えて降りて行くと、路面は
Shining like a new dime
新しいダイムのように輝いていた
The downtown trains are full
ダウンタウン・トレインは満員で
With all those Brooklyn girls
ブルックリンの女の子で溢れている
They try so hard to break out of their little worlds
連中は一生懸命なのさ、自分達の小さな世界から出て行きたくて

You wave your hand and they scatter like crows
君が手を振ると、周りの連中がカラスのように散っていく
They have nothing that will ever capture your heart
彼等は持っちゃいないのさ、君の心を惹きつけるものなんて
They're just thorns without the rose
花びらのない薔薇の棘みたいなものだからな
Be careful of them in the dark
だけど注意しなよ、暗がりでの彼等には
Oh if I was the one
もし俺が特別な男だったなら
You chose to be your only one
君が選んだ男なら、と思うけど
Oh baby can't you hear me now
この気持ちが君に届くことはない

Will I see you tonight
今夜、君に会えるだろうか
On a downtown train
ダウンタウン・トレインに乗れば
Every night its just the same
毎晩、見かけることが出来たのに
You leave me lonely, now
君は孤独を残し、去っちまった

I know your window and I know its late
君の姿を窓に見るには、遅い時間だったけど
I know your stairs and your doorway
せめて君がよく使う階段や入り口を見たかった
I walk down your street and past your gate
俺は君の街を歩き、君の門を通り抜け
I stand by the light at the four way
街灯がある街角から窓を見上げると
You watch them as they fall,
君は群がっている連中を見下ろしていた
Oh baby, they all have heart attacks
ベイビー、彼等は心臓発作にでもなったように
They stay at the carnival
窓の下で大騒ぎしているけど
But they'll never win you back
誰ひとり、君を取り戻せやしない

Will I see you tonight
今夜、君に会えるだろうか
On a downtown train
ダウンタウン・トレインに乗れば
Where every night its just the same
毎晩、見かけることが出来たのに

Will I see you tonight
今夜、君に会えるだろうか
On a downtown train
ダウンタウン・トレインに乗れば
All of my dreams just fall like rain
全ての俺の夢が、まるで雨のように
All upon a downtown train
ダウンタウン・トレインに降り注ぐ
 
Will I see you tonight
今夜、君に会えるだろうか
On a downtown train
ダウンタウン・トレインに乗れば
Where every night, every night its just the same
毎晩、毎晩、見かけることが出来たのに

Will I see you tonight
今夜、君に会えるだろうか
On a downtown train
ダウンタウン・トレインに乗れば
All of my dreams just fall like rain
全ての俺の夢が、まるで雨のように
All upon a downtown train...
ダウンタウン・トレインに降り注ぐ...
 

" Rod Stewart - Downtown Train "
 
「もうひとつの月はどこにあって、何色なのか?」


" Outside another yellow moon " この一番冒頭の部分。ここに「Outside」と書かれていることから考えると「主人公は建物の中に居る」ということみたいだ。おそらくトム・ウェイツは、最初の歌詞の前に以下のようなものを思い描いていたのかも知れません。

--------太郎の妄想--------
男は薄暗い部屋の中で待っていた。
彼女の乗ったダウンタウン・トレインがやって来る時を。
男がグラスに視線を落とすと
残り少なくなった琥珀色の液体に月が映っていた。
男はそれを一口舐めるとグラスの中を見つめたまま
彼女への想いを彷徨わせていた。
不意に電車が線路を滑ってくる音が聞こえた。
男はグラスをテーブルの上に置いて窓の外を眺めると
「外にも月があった」のに気付いた。
--------太郎の妄想、終わり--------

つまり Outside another yellow moon=外にある他の、黄色い、月という部分で表現しているのは

1.男は物思いに耽っていた(彼女のことを考えていた)から物語がはじまるまでは「グラスの中の月ばかりを見ていた」ということ。

2.そしてわざわざ月を yellow と記述しているのは「グラスの中の月は琥珀色だったから」じゃないのだろうか?


「どうしてパンチ穴と表現したのか?」


Outside another yellow moon
窓の外にはもうひとつの月が浮かんでて
Punched a hole in the nighttime, yes
パンチで抜いたように夜空に穴を開けちまってる

ノートとかを紐で閉じるときに綴じ穴を開ける文房具(パンチ)があってそれで穴を開けると輪郭のクッキリした穴が開く。そのことから考えると(さっき書いたことが前提ですが・・・)

「グラスの中に映り込んでいた月はクッキリとした輪郭をしていなかった」からじゃないかな?(ウィスキーの液面で揺れていたってことね)

だから余計、クッキリとした印象を持ったのかも知れませんね。
なかなか歌詞の背景を考えるのは楽しい。


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2012/09/17      1980 T Tom Waits